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前回のブログでは医工連携における基本的な課題について触れましたが、今回はより具体的で深刻な問題について解説します。それは「医師の要求だけを聞いて開発を進める」ことの危険性です。

よくある失敗パターン:医師の声だけを信じた結果

実際の失敗事例

ある製造業のA社が、医師から「手術時の患者体位固定具」のニーズを聞き、開発に着手しました。医師の要件を忠実に反映し、何度も改良を重ねて製品を完成させ、いよいよ販売準備に入ったところで思わぬ壁にぶつかりました。

手術部の看護師から「患者の床ずれリスクを誘発する恐れがあるため使えない」と指摘されたのです。結果的に、発案者の医師の手術時のみに使用される、極めて限定的な製品となってしまいました。

なぜこのような失敗が起こるのか?

チーム医療への移行

現代の高度医療は、従来の医師中心の医療から「チーム医療」へと大きく変化しています。一つの治療や手術においても、複数の専門職が連携して患者に最適な医療を提供する体制が確立されています。

患者をとりまく多様なステークホルダー

事例の場合、患者の治療には以下のような専門職が関わっており、それぞれが異なる視点と専門知識を持ち、患者の安全と治療効果の向上のために協力しています。

  • 執刀医: 手術の実施
  • 麻酔科医: 手術中の麻酔管理と全身状態の維持・管理
  • 手術室外回り看護師: 手術の間接的な介助、患者モニタリング、体位固定・変換
  • 皮膚排泄ケア認定看護師: スキントラブルへの対応提案

この中で手術室外回り看護師は、手術中の患者の状態をモニタリングや手術中の患者の体位固定・変換といった重要な責務を担っているため、体位固定具においては外回り看護師もディシジョンメーカーです。本来であれば開発前段階でヒアリングを行う必要があったところを行わずに開発を進めてしまったため、上記の結果を招いてしまったのです。

成功への道筋:幅広いヒアリングの重要性

ステークホルダー全体への配慮

医師のニーズだけでなく、関わる全ての医療従事者の要求を把握することが重要です。これにより:

  1. 実用性の高い製品開発: 現場で実際に使われる製品を作ることができます
  2. リスクの早期発見: 開発後期での致命的な問題を未然に防げます
  3. 競合優位性の確立: 多角的な視点からの製品開発は、他社が真似しにくい参入障壁となります

医師の働き方改革がもたらす新たなニーズ

また、医師の働き方改革に伴い、医師から看護師や他のコメディカルスタッフへのタスクシフトが進んでいます。例えば:

  • 事前に医師と取り決めたプロトコールに基づく薬剤の投与
  • 採血・検査の実施

これらの変化により、医師以外の医療従事者の業務負荷軽減ニーズが増加しており、新たなビジネスチャンスが生まれています。

まとめ

医工連携を成功させるためには、医師の声だけでなく、医療現場に関わる全てのステークホルダーの声に耳を傾けることが不可欠です。チーム医療の時代だからこそ、チーム全体のニーズを理解し、それに応える製品開発が求められています。

次回は、このようなリスクを回避し、成功確率を高めるための具体的な準備と調査方法について詳しく解説します。


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