医工連携とは
大学病院内で医療機器開発コーディネーターとして医工連携に携わって3年が過ぎました。コロナ禍で、医療機関への企業訪問が厳しく制限された時期もありましたが、ここにきて漸く訪問規制も緩和されつつあり、コロナ前の状況に戻りつつあります。
また、着任以来関わらせていただいていた医工連携案件について徐々に成果が見えてきている状況です。
新規事業参入の候補として「医療、ヘルスケア分野」を検討される場合、参入方法の一つとして「医工連携」があげられます。経済産業省の医工連携事業化推進事業では「医工連携」の医と工のことはそれぞれ「医療現場(医療機関)とものづくり企業(工業界)」を指しており、日本のものづくり力を活かした医療機器の創出を強力に推進しています。実際は医療機器に限らず、医療現場で使用される医療雑品的なニーズ案件もたくさんあります。そのため本コラムではこういった医療雑品も含めて医療現場のニーズを工学技術で解決するための取組を医工連携と呼ぶことにします。
成果が上がらないと言われている「医工連携」
さて、この医工連携ですがなかなか成果が上がらず、特に中小企業が取り組むには難しいというお話もよく耳にしますし、実際支援する立場においてもその難しさはよく感じるところです。難しい理由としては企業側、医療機関それぞれの抱える課題があると考えます。また、それぞれの課題を解決する方法もあるので順に説明してゆきたいと思います。
企業側の課題:経営資源の不足(ヒト、カネ、情報)
いわゆる企業を経営する上での要素や能力のことを経営資源と呼びますが、中でも重要とされるのが4大経営資源であるヒト、モノ、カネ、情報です。中小企業はこれらの4大資源が少ないため、既存の事業活動においても不足していると言われています。
こと医工連携においてこれらの経営資源のうちのヒト、カネ、情報が理由となる場合が多いですが実際に医工連携に取り組んでいる企業はどうやって乗り越えているかについてお話します。
ヒト:慢性的に人出不足と言われている中小企業。そのため、医工連携に取り組むにあたっても専任ではなく、兼任で取組まれる企業のほうが多いようです。また、本業(既存事業)における業務とのバランスをとりながら取り組む関係上、医工連携に割く時間が削られてしまい、開発期間が長期化、場合によっては、あまりにも時間がかかりすぎてしまい医工連携相手である医療従事者から見限られてしまいかねませんのでそこは避けたいところです。
実際に取組んでいる企業さんの中にはものづくりのエンジニアができる限り医療現場に足を運ぶケースと、医療従事者のニーズをヒアリングしてエンジニアに伝える開発担当者が窓口としてくるケースとがあります。どちらが正解かということはないのですが、前者の場合は、試作機が出来上がるスピード感が早くなる一方、複数名の時間を医工連携に割くということより、他業務への影響を考えながら取り組む必要があると感じます。後者の場合は、
医療従事者のコメントや意見をどれだけ正確に設計チームに伝えられるかが重要です。ここの情報交換がうまくいかないといつまでたっても医療従事者の要求事項が反映された製品開発が進まないというリスクが生じます。
カネ:医療分野に関わらず、新製品の開発には費用がかかりますが、余力のない中小企業にとっては捻出そのものが難しい場合と、既存事業のように目利きが聞かない分野においては、開発費用をかけて実施するリスクを考える場合とがあるようです。個人的には前者のような企業の場合は、医療分野に限らず不確定要素の多い新規分野への参入に取組むべきではないと考えます。新規分野は既存事業で一定以上の収益を出している企業さんが、自社と自社を取り巻く外部環境の今後を見据えた結果、余力があるうちに取り組むべきです。また、後者のような企業の場合、開発費に関しては、国や地方自治体による補助金を活用しながら取り組むことが自社の懐が痛まずに実施できる方法です。但し、採択されるための事業計画書作りが重要です。なお、医工連携事業に慣れた企業は開発計画に複数の補助金への申請を入れた計画書を作成、実施されている企業もいます。
情報:医工連携を進める上では多種多様な情報が必要です。医療を取り巻く情報と一概に言っても例えば、医療現場で使用されている用語や医療業界の特性、「ある医師にこんな医療ニーズがあるので商品化してほしいと言われたけど作ったら儲かるのか?」など、これは中小企業に限ったことではないですが、医療分野という新分野における情報収集に最初はどの企業も適切な方法が分からず苦労するところでしょう。情報収集は自社で行わずとも外部の調査会社に依頼して調査して貰うこともできますし、依頼に応じて当社でも調査活動の実施も可能ですが、結構な費用が掛かってしまうことも事実です。
医工連携は難しい道かもしれませんが、適切な計画とサポートを受けることで、中小企業も成功する可能性があります。
次回のブログ「医療機器開発コーディネーターが考える中小企業にとっての「医工連携」の難しさとは②」では、医療機関側の課題について解説する予定です。